天才クールスレンダー美少女になりたい

チラシの表(なぜなら私はチラシの表にも印刷の上からメモを書くため)

快速御坊行きと私

小学生の頃、私は相当な鉄オタだった。機会があれば乗り鉄撮り鉄もしたけど、どちらかといえば時刻表鉄だった。時刻表を開き、実行しない前提の旅行計画を練り、路線図を眺めてはニヤニヤする。ダイヤグラムや配線にハマって、架空鉄道のダイヤを作成したこともある。小学生の作るものだから、あまりにも拙かったが。

そうして時刻表鉄をしているとある日、梅田貨物線を通る普通列車を見つけた。梅田貨物線は貨物線なので(当たり前だ)、旅客列車は特急のくろしおやはるかしか通らない。そう思っていた私にとって、この列車はかなり印象深かったらしい。それ以来、私は「この列車に乗ってみたい」と思うようになった。

大阪市民である私にとって、この列車に乗るのはとても簡単なことだ。ちょっと早起きするか、あるいは夜更かしすればいいのだ。

しかし、ちょっと努力すれば簡単に実現できる小さな願いというのは、往々にして叶えられない。やろうと思えばいつでもできる、そう思ってしまうと、実現するには何らかのきっかけが必要になる。もし何のきっかけもなければ、その小さな、本当に些細な願いは永遠に叶えられないだろう。

事実、このちっぽけな願いは実現されなかった。実際にやってみようと思うほど熱意があるわけではなかったし、特に実現するきっかけもなかったからだ。やがて、鉄道への興味が薄れていくにつれて、この願いも忘れ去られた。鉄道への興味が完全に消え去ったというわけではなかったが、時刻表を眺めることはなくなった。

しかし、ちょっとした奇跡というのは稀に起こるものらしい。

この週末、私は所用で平塚に出かけた。最寄り駅までバスで30分の辺境に監禁されたり、化学が全く分かっていないことを突きつけられて絶望したりした。そして用事が終わり絶望的な気持ちになっていた私は、オフ会のため横浜に出た。家系総本山吉村家チャーシュー麺を食し、有隣堂で理学書談義をした。ところでラーメンと本の力はすごい。ラーメンを噛み締めながら無心に食べている間は全てを忘却できるし、本を眺めている間も同様だ。ラーメンや本には中毒性がある薬物が含まれているに違いない。

さて、オフ会を終えた私は小田原まで1時間ほど在来線に揺られた。本来は新横浜からのぞみに乗るのが最短なのだが、あいにく買っていた特急券が小田原から新大阪までだったのだ。そもそも横浜でオフ会するなんて、切符を買った頃には考えていなかった。そして、停電で絶賛遅延中のひかり号に乗車した。一本前のこだまの自由席は絶望的な混み具合だったが、次のひかりはギリギリ座れる程度に空いていた。あと、乗ったひかりが小田原-名古屋間無停車で、座れたことを感謝した。座れさえすれば、停車駅は少ない方が良い。座れなかった人はご愁傷様でした。

そして、新大阪に着く少し前、乗り換えを案内する放送が流れたのだ。そこで「快速御坊行き」の名前を聞いた私は、かつての小さな願いのことを思い出した。新大阪発御坊行きとなると、梅田貨物線経由以外にはありえない。となれば、この列車は私が乗りたいと願っていた列車にほかならないだろう。そう考えた私は、せっかくだからと小学校からのちっぽけな願いを叶えることにした。ちなみにその後信号待ちで20分くらい追加で遅延した。まあ新大阪駅が満線なら仕方ない。

オフ会や停電の影響で予定より大幅に遅れて新大阪駅に到着した私は快速御坊行きを待った。電車は間もなく入線してきた。いくら幼いころの些細な願いだからといって、念願は念願だ。紀勢本線の快速列車であることを示すWの文字とLED行先表示に書かれた「和歌山方面 御坊」を眺めながら、かつての熱烈な鉄オタだった自分に郷愁を感じ、この巡り合わせに感謝した。

これだけでも「鉄オタちょっといい話」なのだが、それだけではなかった。車内で待っていると、駅員のアナウンスが流れてきた。そのアナウンスによると、この列車は3月17日のダイヤ改正で消えてしまうらしい。少なくとも新大阪に乗り入れることはなくなるという。ブルートレインに間に合わなかった私は、しかしながら梅田貨物線経由快速御坊行きにはかろうじて間に合ったのだ。なんという幸運だろう。用事がダイヤ改正前だったこと、横浜でオフ会したこと、新幹線が遅れていたこと。全ての条件が噛み合わない限り、私はこの列車に乗れなかったのだから。

もうすぐ消えると分かると、途端に寂しさが湧いてきた。今は昔ほど鉄道に興味がないとはいえ、思い入れは強いのだ。私は先頭車両に移動し、何年ぶりか分からないかぶりつきを敢行することにした。先頭車両にはカメラを持った人が複数人いて、外にも撮り鉄らしき人が何人かいた。他にも、後からおじさんがやってきてかぶりつき始めた。みんなこの列車を惜しんでいるのだろう。鉄道から離れて数年が経ったが、現役の鉄道マニアたちと同じ気持ちを(おそらく)共有していることが嬉しかった。私は今でも、自分が思っているよりは鉄オタだったらしい。

電車は新幹線の接続待ちの影響で5分ほど遅れて出発した。私はガラスに顔を近づけ、車内の明かりが反射しないようにして、ポイントひとつ見逃さない心意気でかぶりついた。あたかも小学生時代に戻ったかのように。

梅田貨物線は東海道本線としばらく並走し、淀川を越えたあたりで東海道本線と分かれる。その後しばらくして、列車は梅田貨物駅のだだっ広い跡地を通過したはずだ。暗くて何も見えなかったが。その後踏切を通過すると、大阪駅から三ノ宮へ向かう東海道本線の下をくぐり、福島駅北側の踏切を通過して環状線と並走し始める。並走といっても、梅田貨物線が地上付近を走行している一方環状線は高架なので高さは違う。その後、貨物線は上り坂となり、野田駅付近で環状線と合流し同じ高さとなる。ただしホームはない。

ちなみに、野田駅には梅田貨物線のさらに北側、地上に降りていく謎のスロープがある。毎朝環状線に乗っていて見るたびに不思議に思っていたのだが、どうやら大阪市中央卸売市場本場に向かっていた貨物専用支線の跡地らしい。

野田駅を通過後は、西九条駅直前でポイントを左に渡り、外回り(大阪方面)の線路を経由してまたポイントを左に渡り、そのまま西九条駅の3番線に到着する。新大阪を発車してから、初めての停車駅である。3番ホームは通常JRゆめ咲線(桜島線)の列車が利用するホームであり、まっすぐ進めば安治川口方面に至る。まあ、西九条駅を通過する貨物列車はことごとく安治川口の貨物ターミナル行きなので自然な成り行きだろう。西九条駅を発車した電車はポイントを左に渡って、ついに環状線と合流する。私はそれを見届けて、空いている席に戻った。ここから先は紀州路快速と全く変わらないから、かぶりつく必要が感じられなかったし。

もし今回この列車に乗れていなければ、そもそも廃止を知ることはなかっただろう。仮に知ったとしても「へえ、そうなんだ、そういや昔乗りたいと思ってたなあ」くらいの感想しか持てなかったはずだ。叶わなくても別に問題ない、その程度の願い。同じような願望は毎日無数に生まれているだろうし、ほとんどは叶えられず、それどころか思い出されることすらなく闇に消えていくのだ。だからこそ、奇跡的に叶えられた願いは強く印象に残るし、私はこの出来事を忘れることはないだろう。いやまあ1年後には忘れてるかもしれないけど、ブログ読み返せば思い出すからセーフということで。

列車は相変わらず5分遅れで夜の天王寺駅に滑り込んだ。和歌山方面の終電だからか、天王寺から乗る人がたくさんいた。まだ少し寒いホームに降り立ち、私は現在に帰ってきたのを実感した。扉が閉まり、私を小学生時代に飛ばしたタイムマシンは闇を切り裂いて走り去った。

阿波座のロシア料理店「持力」に行ってきた話

追記

2018年の夏を過ぎてからここに何回か行ったのですが、営業していませんでした。サイトも消えてしまっているし、残念ながら閉店した可能性が高いです。

さらに追記

また別の日に行ったところ、別の店に変わっていました。黙祷。

本編

大変素晴らしかったけど情報が少なかったのでブログを書くことにした。

http://moteryoku.commoteryoku.com

阿波座のロシア料理店を検索するとOLGAという店も出てくるのですが、同じ場所なので改名か何かしたんだと思います。ちなみに「持力」はロシア語で蛾とか蝶とかいう意味の"мотылёк"(マティリョーク)の当て字です。店のロゴも蝶だし。

ランチはハンバーグ・ペリメニ・ブリンチキの三種類で、全て1000円でした。ちなみに私はペリメニを食べました。

もともと MOCKBA+7(http://www.mockba7.com)に行く予定だったんだけど、休業日であることに当日(店の前まで来て)気付いてしまい、検索して出てきた一か八か阿波座の料理店に行きました。結果的には成功だったけど。



ロシアンティーはジャムとお茶を同時に食べる(飲む)ものであって、ジャム入り紅茶とは限りません。ほどよく酸味の効いたブルーベリーのジャムが大変おいしかったです

ロシア語でもアニソンやボカロが聴きたい人のためのリンク集

全国1.3億人のロシア語オタクのみなさん、こんにちは。この記事は、ロシア語でアニソンやボカロが聴きたい人のためのリンク集です。聴きまくってリスニング力を伸ばしましょう。(伸ばせるとは言っていない)

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「すべてがFになる」感想

実はアニメ化以前に読んだことがあるんだけど、読み直してもやっぱり最高だった。

まず、タイトルの「すべてがFになる」がすごい。Fが何を意味するのかは最後の解説パートで明かされるんだけど、タイトル回収が鮮やかすぎて心臓が撃たれたような心地になった。あれは初回限定だし、ネタバレなしで読んで良かったと思う。ちなみに、数学や情報(プログラミング)の知識があると、解説される50ページ前で気付けるようになってる。もっとも、知識も興味もない人が説明を読んだところで「ふーん」の一言で済んでしまうかもしれないが。

あと、天才設定の真賀田四季が良かった。天才なんだからあれくらいぶっ飛んでくれないと楽しくない。ぶっ飛んでるし共感はできないけど、納得はできた。犀川先生は一般人だけど、人によってはぶっ飛んでるように見えるかも。そういう人は萌絵が一番共感できるんじゃないか。

ちなみに副題は"THE PERFECT INSIDER"で、シリーズ最終作「有限と微小のパン」の副題は"THE PERFECT OUTSIDER"と対になっている。

とにかく、最高なのでみんな読もう。

以下、犯人等のネタバレを含む。未読の人はネタバレされる前に読もう。

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hontoで電子書籍レビューしてみた話

hontoで電子書籍デビューしてみた。買ったのはこの本。本自体の感想はまた別の記事で。

あの、一緒に戦争しませんか? (電撃文庫)

あの、一緒に戦争しませんか? (電撃文庫)

hontoの良いところ

クーポンのおかげで安い

今回のこの本、本来なら680円。それが、honto電子書籍ストアのお試しクーポンで500円引き。さらに、ポイント大量キャンペーンのおかげで26ポイントも付いて、実質154円。マネケンのワッフル1つと同じくらい。これはヤバイ。お試しクーポンは今後来ないだろうけど、20%オフとかコンスタントにクーポンが来るので多分安く本が買える。

hontoの残念なところ

読書に専用アプリが必要

おいお前ら! ストアごとにアプリを入れる、そんなのが電子書籍の未来だって言うんなら……その幻想をぶち殺す!

イラスト画質がちょっと良くない

参考までに、巻頭イラスト(キャラ紹介を兼ねたやつ)をちょっと拡大してみた画像を貼ってみる。

f:id:fabonya:20170809123954p:plain

文字が読めない……(いや、かろうじて読めるか)

ちなみに、他の挿絵は画質そんなに気にならなかった。文字が入ってないからだけど。

DRMがある

DRMがあると、サービスが潰れた時に別の端末で読んだりできない。お金を出して買ったのに読めなくなるなんて、ソシャゲより悪質だと思う。

とはいえ、プレイするのにいちいちネットワークが必要なソシャゲとは違う。買った本はネットに接続されていなくてもちゃんとした形で読めるのだから、サービス終了と共にサーバが消えてもまだ読めるような気はする。希望的観測だけど。

結論

電子書籍DRMなければもっと大っぴらに利用するんだけどなぁ……でも実際問題DRM廃止ってのは難しいんだろうなぁ……という気持ちです。
とりあえず、今後もメインは紙の本で。とりあえず安く手に入れて読みたいって場合は電子書籍かな。気に入ったらジュンク堂行って紙の本で買い直すと思う。

朝鮮中央通信Web版大解剖、或いは初めてRubyのgemを作った話

諸君 私は北朝鮮が好きだ
諸君 私は北朝鮮が好きだ
諸君 私は北朝鮮が大好きだ

とある少佐のスピーチより

人生で初めてRubyのgemを作りました。

github.com

北朝鮮公式のニュースサイトである朝鮮中央通信APIクライアントです。gem install kcnaとかでインストールできます。
人生初のgemがこんなアレな代物ってことに思う所が無いわけではありませんが、楽しかったから良し。

経緯

全国推定3億人の北朝鮮趣味者のみなさん、こんにちは。私は今日も首領様を讃える音楽を聴いております。北朝鮮の音楽はいいぞ。

さて、日本人なら1度くらいは誰しも北朝鮮の仰々しい日本語を真似したことがあるでしょう。「定期考査をこの学校から永遠に一掃することを誓う」とか。共産趣味者はみんな「同志スターリン」とか「万国のプロレタリアート団結せよ」とか言ってますが、それの北朝鮮版です。
しかし、私はプログラマです。自分で北朝鮮の語録を使うだけでは物足りません。もし北朝鮮の日本語のデータベースがあれば、使い古された人工無脳の要領でそれっぽい日本語を生成できるだろう。そんなことを考えた私は、北朝鮮の日本語データベースに着手しました。

まず、初めに朝鮮中央テレビの字幕を採取することを考えました。リプライに使える朝鮮中央通信画像botとかで流れてくるアレです。しかし、調べていくうちに残念なことがわかりました。あの画像群はどうやらとあるYouTubeチャンネルの中の人が付けたもののようです。

www.youtube.com

このチャンネルの動画以外に、あのような字幕付きの動画が一切見当たらなかったので、間違いなさそうです。別にこのチャンネルの字幕を文字起こししても良かったのですが、これは北朝鮮公式の字幕ではないので、目的と照らし合わせればちょっと残念です。

北朝鮮の公式の機関が書いた日本語を探すと、ありました。朝鮮中央通信Web版です。

朝鮮中央通信と検索すると、http://kcna.co.jpが出てくると思いますが、そちらではありません。http://kcna.kpです。.kpドメインのサイトは初めて見ました。あとアクセスは自己責任で。普通に閲覧するだけなら特に問題は起きないと思うけど、マルウェアが置いてあったりはします。

gigazine.net

というわけで、このサイトをスクレイピングなりなんなりしてデータを取ってこようと決意したわけです。

朝鮮中央通信大解剖

さて、このサイトの使い方を調べてみましょう。もちろん開発者ツールのネットワークタブを監視しながら。

まず、トップページから適当な記事のリンク(実はリンクじゃない。後述)を踏むと、こんな画面になります。

f:id:fabonya:20170710211242p:plain

次のリストに移る青い矢印をクリックすればXHRでデータを取ってきて遷移してくれます。つまり、APIの仕様がまるわかりです。右上の謎リボンみたいなのは記事絞り込みツールです。絞り込んだ状態で矢印をクリックすると、APIのパラメータの仕様がよくわかります。

とにかく、いろんなページを渡り歩き、いろんなボタンを押しながらネットワークアクセスを監視しました。そうすればどのURLにどんなデータを送りつけるとどんなレスポンスが帰ってくるかがだいたいわかりました。

さて、このサイト、いろいろツッコミどころが満載です。主体(チュチェ)プログラミングの成果でしょうか。拡張子がkcmsfなのもちょっと変ですけど、それだけじゃありません。

まず、中途半端にJSを使っているせいで記事のパーマリンクがないという事態に。まぁTwitterでシェアなんて概念はあっちにないだろうから仕方ないのかも。

となれば、当然JSからXHRでアクセスするためのAPIみたいなのが存在するが、GETにすべきところも全てPOST。APIだけでなく、ページ遷移も全てPOST。ハイパーリンクなんてものはない。リンクに見えるものも、実はクリックするとJSが発動してPOSTで遷移するようになってます。いやマジでなんでや。北朝鮮特有の事情による要請なんだろうか。

ところで、POSTにおけるリダイレクトはいろいろ仕様と実装が混沌としていますが、307だと大抵のブラウザでもPOSTで再送信という挙動を示しますし、仕様にもそう明記されています。だからといって、しばらく通信してないと初回は307 Temporary Redirectが飛んでくる仕様は如何なものか。しかも飛ばされた先は同じURLですよ。もう一度POSTで同じところへ送れってことなんでしょうね。これもチュチェ工学による要請なんだろう。(諦め)

さて、スクレイピングするまでもなくAPIを叩けば記事のデータが手に入ります。しかし、XHRで取ってきたHTMLの断片をinnerHTMLで突っ込む実装なので、

<nobr><strong><font style='font-size:18pt;'>金正恩</font></strong></nobr>党委員長
みたいな文字列が平気で紛れ込んでます。セキュリティも何もあったもんじゃねぇな。さすが北朝鮮
というわけで、そこらへんを適当に変換してやるとプレーンテキストが得られます。

gemの実装

まず、set-cookieをちゃんと扱えるHTTPクライアントが必要です。今回はhttpclientを使いました。

github.com

XMLのパースには標準のREXMLを使いました。これくらいのことでNokogiri導入して消耗する必要はないからね。(気になる人は「nokogiri インストール」で検索してみよう。インストールに四苦八苦する先人の姿が見えます)

他に難しいことは特にありません。コードを適当に書けばそれっぽいのができます。

最後に

なんでもチュチェチュチェ言ってれば許されると思うなよ、北朝鮮同志(エンジニア)諸君!

「科学の発見」感想

電弱統一理論ノーベル物理学賞を受賞したスティーヴン・ワインバーグ教授が書いた科学史の本。古代ギリシャからニュートンまでの科学の歩みが書かれていて面白い。

科学の発見

科学の発見

過去を現在の基準で裁定する「不遜な歴史書」とは言っているが、個人的にはそんなに問題だとは思わなかった。確かにホイッグ史観はよろしくないとは思うが、ニュートンの方がアリストテレスより世界を理解していたというのは明らかだろうし。そもそも、この本の目的は過去の偉人たちの間違いを取り上げて彼らを糾弾することではなく、現代の科学の方法論を発見するのがいかに難しかったかを過去と比較して明らかにすることであろう。

また、後ろに付いてくるテクニカルノートが素晴らしい。様々な説や発見の数学的・科学的背景について現代の視点から述べたもので、内容が非常に充実している。

ただ、本の前袖(表紙カバーの内側に折れてる部分)に「化学、生物学などは二等の科学だ」とあるのは非常にダメだと思う。本文のどこを読んでも、こんなことは主張されていない。この言葉を追加した出版社の人間はタコ殴りされても許されるのではないか。

太陽系の解明

この本の山場はいくつかあるが、その1つは太陽系が解明されるまでの一連の流れだろう。

古来から、惑うように運行する惑星の動きは難題だった。

プトレマイオス以前、宇宙の構造を説明する理論としてアリストテレスの同心天球説が存在したが、これは観測と合わない点が多かった。そこで、プトレマイオスは周転円と離心円、エカントという概念を導入した。また、モデルにパラメータを導入し、パラメータの値を観測結果に合わせて決めることで観測結果と概ね一致させることに成功した。このあたりの理屈は理解していないので詳細は省くが、この部分のテクニカルノートは相当詳しくて勉強になる。モデルのパラメータという概念は非常に現代的で、プトレマイオスはすごいと思う。

相当複雑なプトレマイオスの理論は、それでもなお観測結果に合わなかった。これは別に天動説の欠陥というわけではなく、地動説を主張したコペルニクスも同様の問題に悩んだらしい。コペルニクスは太陽を中心とすることでプトレマイオス説の不自然な仮定(ファインチューニング)を排除することには成功したが、観測結果とのズレの問題は解消されなかった。天体の軌道が円である、という前提自体が間違っていたから致し方ない。

いずれにせよ、筆者はプトレマイオスを高く評価している。別に間違っているかは論点ではなく、その研究姿勢が科学的だからだろう。

ティコ・ブラーエは「すべての惑星は太陽の周りを回っているが、その太陽は地球の周りを回っている」という説を唱えた。これは地動説を地球中心で見たのと多分変わらないと思う。彼は精密な観測記録を残した。この時代望遠鏡はなかったから、全て肉眼でということになる。恐ろしや。

ケプラーはティコ・ブラーエの観測データを元に天体の軌道が楕円であると考え、ケプラーの法則を打ち立てた。彼のモデルは非常に単純明快であった。エカントだの離心円だのを導入せずに済むからだ。また、観測データともよく合った。そりゃ正しいんだから当然なんだけど。

ガリレオは望遠鏡による観測で、地動説が有利となる証拠を提示した。最終的にニュートンが運動の法則と万有引力の法則を確立し、その結果天動説は葬られた。たくさんの人々の研究の積み重ねが科学なのだから、これは真に科学の勝利といえるだろう。(唐突)

まとめ

いい本でした。