天才クールスレンダー美少女になりたい

チラシの表(なぜなら私はチラシの表にも印刷の上からメモを書くため)

小学生でも分かる斜方投射

yuyusuki.hatenablog.com

小5か小6のころ「天国へのカウントダウン」で灰原哀が落下時間の計算をしているシーンにかっこよさを感じ、そこから力学にハマった——
そういうことを4年半前のオタク自分語り記事で書いた*1。「45度で投げると飛距離が最大になることを自力で『証明』した」とも書いた。


しかし、数学の必須道具の数々を縛られた小学生——たとえば、当時の私は三角関数なんて知らなかった——に、そんなことができるのだろうか。
いや、数学の道具だけの話ではない。そもそも、中高の物理学をかじっていない小学生は運動方程式を知らないし、そもそも素朴な感覚ではない物理学的な「力」の概念すら持たない。科学史を紐解けば分かるが、ニュートン力学における力の概念は決して自明なものではない。アリストテレスほどの知性ですら、正しく「力」を理解することはできなかった。
私は科学の本を好んで読んでいたから慣性の法則くらいは知っていたが、その程度だ。


この記事は、当時の自分が考えたことを記憶の範囲内で書き留めたものである。あくまで記憶だから、ここで書かれているふぁぼん少年(12歳)は現実の12歳の私よりも天才になっているかもしれない。何かを読んで知ったことなのに、誤って自分で思いついたことだと記憶している——これは大いにありそうなことだ。



結論から言うと、私は当然ニュートンほどの天才ではないから、ニュートン力学を発明したわけではない。力の概念をまともに理解したわけでもない。
「力」というものを考えず、単なる運動として斜方投射を捉える——要するに、力学というよりは運動学(kinetics)の視点に立ったのだった。それも、かなり天下りな方法で。





自由落下

まずは、当時の私と同様に、「天国へのカウントダウン」に登場した自由落下を考察してみよう。


落下運動は等加速度運動である。「運動中に速度が変化する」というイメージ自体は素朴なものだし、時間とともに直線的に速くなっていくというのも別に不自然ではないが、そこから移動距離を計算するのはそう簡単なことではない。速度が一定なら時間と速度を掛ければすぐ移動距離が出るけれど、速度が変化するならどう計算すればいいのだろう。


さんざん悩んだふぁぼん少年(12歳)は、ついに天才的な発想にたどりついた。当時の私のアイデアを物理学の言葉で言い換えると「v-t図の三角形の面積が移動距離である」というもの。
……なんでそんなことを思いついたのかは全然分からないが、まあ数学の概念を発明するのは物理学の概念を発明するよりも簡単だと思う。歴史的に見ても、基本的な積分よりも力学の方がはるか後にやってきた。あるいは、単に灰原哀さんが提示した式を理解しようとして原始的な積分の概念に辿りついただけかもしれない。



さて、t秒かけて物体が落下する距離は、t秒後の速度がgtであることと三角形の面積の公式から\frac{1}{2}gt^2だと分かる。




さらに重要なこととして、この作品で扱われているのは、正確には自由落下ではない。水平投射だ。
灰原哀さんは「床の端からxメートル離れていてyメートル低い場所に飛び移るためにどれだけの速さが必要か」という問題に答えるために、まず物体がyメートル落ちるのにかかる時間を計算し、次にxメートルをその時間で割った。


彼女の計算は、私たち物理学を多少やった人間にとっては当たり前で、しかし小学生には全く当たり前でない重大な「隠れた前提」を示唆している。



運動は垂直方向と水平方向に分けて考えていい

そして、(空気抵抗を無視するなら)空中にいる間に水平方向の速度は変化しない




当たり前のように思えるかもしれないが、小学生が「運動はx軸とy軸に分けて考えていい」なんて知っているはずがないのである。

もっとも、当時の私はこんな明確に理解したわけではなく、彼女の計算からこの2つの重大な原則を直感で理解したんだろうけど。


モンキーハンティング

さて、灰原さんのおかげで水平方向は速度が一定だと分かった。これは斜方投射でもそうだろう。

では、鉛直方向は?

もちろん、今となっては「鉛直速度が0になるまでに上がるのに必要な時間v_y/gの2倍に水平速度を掛ければ飛距離になる」という単純な話だと分かるが、当時の私はそこまで頭が回らなかったのだろう。そもそも、「自由落下と鉛直投げ上げが同じ等加速度運動」という認識すらなかったと思われる。そんな馬鹿なと思われるかもしれないが、物理学をやったことのない人間なんてそんなもんである。


鉛直方向の運動の考察に必要な次のピースは、いわゆるモンキーハンティング問題だ。



モンキーハンティング問題というのは、木から落ちる猿を鉄砲で狙い撃ちにするために、どこに向けて鉄砲を撃てばよいかという問題である。
素朴に考えると、猿は落ちるし鉄砲の弾も放物線状に運動するのだから、どちらも単純な運動をしないし、なんだか複雑な計算をしないといけないように思える。



しかし、私が読んでいた子供向けの科学の本には、こう書いてあった。

曰く、落ちる前の猿に向かって銃を向け、猿が手を放した瞬間に銃を撃てば、猿と人間の位置関係に全く関係なく、絶対に猿に命中するのだと。
素朴に考えると正直わけわからん。


ここで、モンキーハンティングが成立するという事実を天下り的に考察してみよう。つまり、モンキーハンティング問題で絶対に命中するという事実をいわば「モンキーハンティングの定理」として受け入れるのである。


弾丸をある水平速度v_xと鉛直速度v_yで発射したとき(ややこしいが、ここではどちらも初期速度を意味する)、弾丸の時刻tにおける位置を考える。ここで、ちょうど時刻tに命中するようにモンキーハンティング問題の猿の位置を調節してみよう。人間と猿の位置関係を固定して銃の向きを問題にするのではなく、銃の向きと速度を固定して猿を動かすのである。

時刻tにおける弾丸のx座標は水平速度一定よりv_xtだし、猿は落ちるだけで水平には動かないから猿のx座標もv_xtのはずだ。そして、弾丸が重力の影響を受けず直進したときに猿の初期位置に当たるようにセッティングすればいいので、猿の初期y座標はv_ytである。

時刻tにおいて猿は元の位置から\frac{1}{2}gt^2だけ落ちるので、時刻tにおける猿のy座標はv_yt-\frac{1}{2}gt^2となる。もちろんx座標はv_xtだ。
当然、弾丸は猿に命中するのだから時刻tにこの位置にいなければならない。




つまり、モンキーハンティングから天下り式に考えると、斜方投射の時刻tと物体の座標x,yが以下のような関係になることが判明した。

x=v_xt, y=v_yt-\frac{1}{2}gt^2



あとは、これにy=0を代入して解けば、地面に落ちるまでの時間が求められる。
私は当時全く数学ができなかったので、0確認をせず両辺をtで割るという恐ろしいことをした。
両辺をtで割るとv_y=\frac{1}{2}gt、よってt=\frac{2v_y}{g}。その間にボールが進む飛距離はtにv_xをかけ算して\frac{2v_xv_y}{g}



sinとcosの積の最大化? 初等幾何で解けらあ!

モンキーハンティングを出発点に、斜方投射の公式を導出できることを示した。残る問題は「斜方投射は45度で飛距離最大」という有名な定理をいかに導出するかである。


もちろん、ちゃんと数学を使えるなら三角関数で一発だ。v_x=v_0\cos\theta, v_y=v_0\sin\thetaなのだから、飛距離は\frac{2v_xv_y}{g}=\frac{2v_0^2\cos\theta\sin\theta}{g}=\frac{v_0^2\sin2\theta}{g}となり、ここではv_0を定数とするため、飛距離を最大化するには\sin2\thetaを最大にすればいい。つまり飛距離が最大となる発射角は45度だ。


しかし、当時の私は三角関数を知らないし、ましてや2倍角の公式など知るわけがない。発射角を変えるとv_xv_yが直線的でない変化をするし、その積なんてどうやって求めればいいか見当もつかない。もちろんルートを使えばx\sqrt{v^2-x^2}などと表せるが、微分を知らない小学生にこの関数の最大値を求められるわけがない。*2


そこで悩んだ挙句当時の私が見出したのは、初等幾何による解決だった。

飛距離が最大のとき、v_xv_yの積も最大となる。そして、v_xv_yを2辺とする直角三角形の面積はv_xv_yの半分だから、これも最大になる。そしてこの直角三角形の斜辺は、定義よりvである。

斜辺vの直角三角形は、円周角の定理より直径vの円の中にすっぽりハマる。そして斜辺は円の直径とぴったり一致する。斜辺をなす2つの頂点は固定し、残りの頂点を円上に自由に動かすのだ。これは発射角を0度から90度まで動かすことに対応する。そしてもちろん、円周角の定理より三角形は常に直角三角形となる。

円と直角三角形

三角形の面積が「底辺×高さ/2」で求められることを思い出そう。底辺は常にvで一定なのだから、面積を最大にするためには高さを最大にしなければならない。つまり、円の一番高いところ、天球でいうところの天頂に頂点を取ると三角形の面積は最大となる。これは二等辺三角形のときで、これに対応する発射角は45度となる。


以上より、飛距離が最長となる発射角が45度であることを証明できた。


おわりに

自分の記憶を頼りに当時の私の思考を追ってみたのだが、さすがにちょっとできすぎている気はしなくもない。特に物理学的考察パートはちょっと怪しい。

ただし、その後の算数パート、たとえば斜方投射の公式から最大値を求めるために初等幾何を使う部分などは確実に当時思いついたことだったはず。これはこれでかなりの天才発想だと思うが、当時の私は今の100倍くらい思考が柔軟だったのだろう。

*1:今読み返すと文章が稚拙で顔を覆いたくなるが、まあ黒歴史なんて生きてれば当然生まれ続けるものだから仕方がない。

*2:と思ってたけど、今思えば外側のxを中に入れると「和が一定である2つの数の積」パターンに持ちこめ、そこから45度最長を導出できることに気付いた。和が一定である2つの数の積が最大になるのは2数が等しいときであり、これは当時の私ですら証明込みで知っていた。具体的には、x^2-y^2=(x-y)(x+y)と実数の2乗が0以上になることを利用すれば一瞬でQ.E.D.である。