天才クールスレンダー美少女になりたい

チラシの表(なぜなら私はチラシの表にも印刷の上からメモを書くため)

プラヴダかイスチナか

Гораздо легче определять правду, чем ложь.
Григорий Павлович Усодадзе

嘘よりも真実の方がずっとたやすく定義できる。
グリゴリー・パヴロヴィチ・ウソダゼ


かつて、具体的には30年以上前、地球にはソヴィエト連邦という変な国があり、そこでは事実上の公用語*1としてロシア語が使われていた。かの国の国営メディアとして、ロシア語の「真実」という単語を冠する厚顔無恥な新聞があったのは有名だろう。「プラヴダ」(«Правда»)のことである。

「なんちゃらかんちゃらプラヴダ」という新聞は当時からいろいろあって、ソ連の青年組織コムソモールの新聞であり今日まで続く「コムソモリスカヤ・プラヴダ」とか、あるいは各共和国・各地の新聞だとウズベキスタンSSRの「プラヴダ・ヴォストーク」(「東方の真実」)とかカザフスタンSSRの「カザフスタンスカヤ・プラヴダ」とかウクライナSSRの「プラヴダ・ウクライニ」とか(ロシア・ソビエト連邦社会主義共和国内の)ダゲスタンASSRの「ダゲスタンスカヤ・プラヴダ」とか、いくつかある。これらは「〜の真実」という有標の名前だが、無標の「真実」、すなわち単なる「プラヴダ」といえばソ連共産党の最も権威ある新聞であった。この事実はソ連における党の行政機構に対する優越、イデオロギー的なヒエラルキーを象徴している……かもしれないし、していないかもしれない*2

ところで日本におけるプラヴダの知名度が高すぎて、あとガルパンのせいで、ロシア語で「真実」といえば「プラヴダ」(правда)だと思われている気がする。まあロシア語で「プラヴダ?」(«Правда?»)と言えば「マジ?」という意味になるくらいだし、使用頻度的には間違っていない。実際のところ、ロシア語にはもう1つ「真実」を意味する基本単語がある。あなたがガルパンではなくアークナイツのオタクなら知っているかもしれない——「イスチナ」(истина)だ。あなたが暇なら手元にある研究社露和辞典(あるいは「イヴァンたちによる露和辞典」こと岩波ロシア語辞典でもいい)でправдаとистинаを引いて比較してみてほしい。結局何が違うのかよく分からないという感想が得られたと思う。私も「истина правда разница」なんてググってみたが、何が違うのか結局よく分からなかった。

意味としてはほとんど同じかもしれないが、私はロシア語を書いたり話したりするとき、「本当のこと」くらいの意味であればプラヴダを、「真実」ならプラヴダではなくイスチナで訳すことが多い気がする。どうもプラヴダという言葉には「真実味」が感じられないような気がしてしまうのだ。プラヴダ(правда)という言葉を使うたびにソ連の体制やイデオロギーを連想せざるを得ない一方、イスチナ(истина)はそういう色がないからだろうか。私はイスチナという言葉の持つ純粋さみたいなものを気に入っていて、その高貴さに見合った登場の機会を与えたいと思っている。






この記事はインターネット知人の企画「深夜の真剣レポート60分一本勝負」に基づき1時間で執筆された。採用テーマは「嘘」。

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*1:いろいろな政治的理由から1990年まで法的には決まっていなかった。1990年の法律«О языках народов СССР»も参照のこと。

*2:実際のところ、党の機構と行政の機構のどちらが政治において支配的だったかは時期によってかなり流動的だ。