天才クールスレンダー美少女になりたい

チラシの表(なぜなら私はチラシの表にも印刷の上からメモを書くため)

おしまいインターネット歌会 vs. 趣味最悪エロゲーマー


※この記事には多少の性的な表現やアダルトゲームに対する言及が含まれます。あまり上品とはいえないので、閲覧時にはご注意ください。
なお、「結果」以降の章はそういう要素0の完全クリーン文章になっています。

はじめに

私が敬愛するものはたくさんありますが、その1つはブログ「六代目:生活の困難」。数年のFF付き合いで「こいつらセンスがヤバいな」と薄々思ってたオタクたちが集まって綴っている、全体的に完成度の高いブログです(完全に後方古参腕組顔)。ぜひ読んで抱腹絶倒してほしいです。


umector.hatenablog.jp

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さて。

このブログの記事で、短歌を読者から公募する企画が告知されていました。


一年の終わりにカスみたいな和歌を詠み合う「歌会終」、テーマは「聖なるもの」。これはもう応募するしかないでしょう。

しかし、残念なことに私には短歌の経験も才能もありません。


でもいい感じに褒められたい。入賞は無理でも足切りくらいは突破したい



うーん、搦め手使うか!w



パンチを効かせた一発ネタを用意してオンリーワンを狙い、それだけでは天才に勝てないので一発ネタ抜きの細部もしっかり詰める。

最近の文章、ブログも同人も全部こういう貧者の戦略なんですよね。ワンパターン。








短歌シンキングタイム


「テーマが聖なるもの、じゃあ逆に俗悪なるものを詠もうかな」

逆張りオタクとして日々訓練されていると、こういう発想が一瞬で出てくるようになります。マジで最悪ですね、自分。


拝金?
まあ悪くはないんですが……

人間の最悪な部分?
これは割と良さそうな気がします。

性欲?
ちょい安直かな……
そもそも、短歌に性的なネタを投入したところで、「性を詠み込むこと自体が悪いわけではないが、それ相応の完成度が求められますよ」ってなるのは目に見えてますし……単に卑語を連発する類の下ネタを歌会でやるのは自分の美意識的にNGです。最悪インターネット歌会なのでそういう歌もどんどん集まりそうですけど、私はやりたくないです。




……ん?

人間の最悪な部分 + 性欲 = ?

みなさんは、この等式の右辺が分かりますか?



答えはこちら。最悪エロゲーマーの恒等式

人間の最悪な部分 + 性欲 = 最悪エロゲ






冬やクリスマスといえば鬱と陵辱と最悪エロゲ、そう相場が決まっています。螺旋回廊、アノニマス*1School Days*2WHITE ALBUM2




人間の最悪さを描きたいから、その一部として性に関するものを詠み込む。これなら自分的にも文句なしの合格点です。むしろ、人間の最悪さを描写したいなら、流通経路や規制のような大人の事情は仕方ないにしても、やっぱり性的な欲望を見ないふりするなんて不誠実でしょう。
先述したようなエロゲに全年齢版が出ていなかったり、出ていても「やっぱりR18版でやった方がいい」とよく言われる理由がそこにあります。性的なものが絡むとやはり†重さ†が違う、ということでしょう。
私は重いの苦手だけど……



とはいえ、人間の俗悪なところを詠むこと自体は問題ないのですが、テーマは「聖なるもの」なんですよね。私は歌会に真摯でありたいので、可能なら「聖性を表現するために対となる俗悪さを表現しました」みたいな言い訳はしたくありません。







あ、聖と俗の対比にすればいいのでは?


「清楚な女性がそういうことやってたら、ヤバくない?」という、めちゃくちゃ陳腐な着想が降ってきました。そういうエロゲ無数にあるから。和姦も陵辱もどっちもめっちゃあるから。

確かにめちゃくちゃ陳腐ですが、私が今考えた座右の銘「アイデアは雪の氷晶核、きれいなのは結晶部分」にもある通り、そのアイデアをどう見せるか次第で良いものにもできるはずです。

ウラジーミル・プロップを引用するまでもなく、世にたくさん存在する傑作だって、美しい装飾を取り払って骨格だけ晒してしまえば、だいたい同じようなものにしかなりません。それが傑作たる理由は、一見非本質的な装飾にこそ宿っています。まあ、物語と短歌はちょっと違いますけどね。






しかし、「ヤバい」だけでは悪さが全く足りません。確かに社会の一般的な通念として、性的な話は清楚さとは正反対に位置付けられますが、もともとのコンセプトである「人間の最悪さ」と称するには、あまりにも力不足です。



こういうときは、人間1人ではなく、集団に登場していただきましょう。個人の最悪さよりも集団の最悪さ、それも個人それぞれには悪意のないものを。





無関心、無責任、偏見、一方的で暴力的な視線・感情・欲望。



「人々から好意や憧れを集中的に向けられる人が、実際にはその視線の一方的さに辟易している」というのは定番のネタですよね。ラノベや光のエロゲ(白箱系)では、一方的に期待されたその役割から降りれる場として、主人公(たち)と過ごす時間が救いになるというのが定番です。めちゃくちゃ有名な例だと「お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件」とか。

え、闇のエロゲ(黒箱系)はどうかって? ノーコメント。

物語は、いつも幸福な結末(ハッピーエンド)とは限らない

少女神域∽少女天獄 -The Garden of Fifth Zoa-



さて、まあなんか、発想が繋がってきましたね。「高嶺の花扱いされている人が、誰かと性行為をした」。
メインの骨格はとりあえずこれでやってみましょう。無理だったら変えればいいんです。


ここからさらに最悪さを重ね塗りしていきましょう。



まず、下品な噂話というフォーマットを導入することを思いつきました。これは我ながらファインプレーで、まず文体とか内容も無責任かつ一方的で最悪ですし、読者に「何かの集団の話なんだ」と明確に、しかし暗黙のうちに提示することができます。字数が限られている短歌において、たった数文字で趣味の悪さを重ね塗りした上でさまざまな情報を伝えられるのは強カードといえるでしょう。しかも、最後に「〜らしい」みたいな感じで伝聞だと示すことで、無責任さの上塗りができます。


ついでに、舞台は学校にします。会社など大人の集団を舞台にした悪辣な物語もありますが、やはり学校という舞台には未熟ゆえの悪意のない最悪な言動が似合います。成熟すると明確に悪意を持って最悪をやり始めますが、それだと最悪ポイントが下がってしまう気がしますね(個人の感想です)。




次に、「高嶺の花」を表す表現を考えてみます。噂話というフォーマットなら呼び名を使うのが最適でしょう。

こんな短歌の解説に引用するのは本当に最悪だと思うんですけど、先述の「お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件」には「天使様」が登場します。いくら人気のある女子生徒でも現実で「天使様」はさすがにないと思うんですけど、ラノベ的な文脈ならこれくらいはセーフということで、非現実方向に振り切れてしまいましょう。神聖化の度合いが高いほど、「ホテルに行ったらしい」とか「ヤッたらしい」という後半部分との落差もひどくなります。


まあ、テーマが「聖なるもの」ですし、少々安直ですが「聖女さま」でどうでしょう。
実は、「聖女」という呼称もラノベで実在しないわけではありません。「放課後の聖女さんが尊いだけじゃないことを俺は知っている」とかが該当例ですかね。




「聖女さま」について具体的な描写をしないことで、読者の想像を膨らませることができます。

字数は少なく、解釈の余地は広く。全部でたったの31音ですからね。




もう終わり?

いいえ。もっと、もっと最悪を塗り込めていきましょう。





学校の最悪ポイント、かつ物語でも頻出の存在があります。

スクールカーストです。

こいつを使わない手はありません。というか、さっき学校を舞台に決めたのには、これを使いたかったからという理由もあります。





「聖女さま」の相手は誰でしょう?

まあ、こういう噂になるのだから、カースト的に不釣り合いな人ではないでしょう。不釣り合いであればもっとマイナスの噂になっているはずですからね。そういう「不釣り合いだ」という周囲の偏見、あるいはスクールカーストという構造と戦う作品も好きですが*3、今回は違います。


まあ、順当にいけば、運動部に所属している人間ですね。というわけで、「バスケの部長」です。

音数的にハマるのがこれしか思い付かなかっただけで、別にバスケットボールに恨みがあるとかそういうわけではないです。




「バスケの部長」側の、すなわちトップカーストの人間を主人公とする作品も最近ではかなり増えてきましたが(大人気の「千歳くんはラムネ瓶のなか」とか)、インターネットの古いオタクが「うちのクラスの聖女さま」で想像するイメージはどうしても、古典的な「やや内気な主人公」みたいなのから離れにくいのではないでしょうか。何を隠そう、私もそうです。
というか、「お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件」を強く連想させるような言葉遣いをしているのですから、そういうイメージになるのは当然なんです。


お前らのイメージする「聖女さま」は、バスケの部長とヤッたりなんかしません。



というわけで、後半の「バスケの部長とヤッたらしい」でそのイメージを粉砕します。完膚なきまでに。
この短歌はそういう世界観じゃないです、もっと「リアル」な、最悪な世界です、と。

もし、これを聞いている側が「主人公」で、彼の思い人が「聖女さま」だったら……?


もはやこれは、「観念的BSS」(BSS=「僕が先に好きだったのに」、勝手に片思いしてた人が別の人と付き合い始めて失恋する展開を特徴とする、NTRの派生ジャンル)とすら言えるでしょう。
ちなみに、BSSは情けなさや自信不足、劣等感などが刺さる自己肯定感弱めマゾに大人気のジャンルです。


あるいは、ここから暴走した主人公が「聖女さま」を無理やり……みたいな展開の可能性もあります。こういう作品は当然無数にあるでしょうけど、私が知っている中だとCLOCKUPの「夏ノ鎖」とかが近いですかね。あれは一足飛び越えて監禁ものですが。(そもそも私はそういう過激な作品をあまり知りません 苦手なので)




……自分で書いておいてアレなんですが、性格が悪い。









あとは細部を詰めていきます。

突然「聖女さま」と書いても、それを「高嶺の花の女子生徒のことか」と理解してくれる人はそういないでしょう。そこを補うために「うちのクラスの」をつけます。これで文句なしにラノベ的な学園を連想してもらえるはずです。同じクラスだったのに……となるとBSS感も強くなりますし。



はい、完成。


完成した歌

なあ、聞いた? うちのクラスの聖女さま、バスケの部長とヤッたらしいぞ


この解説ではアイデアについて順番にいろいろ書いていますが、実際にはほぼ完成形が10分くらいで天から降ってきた、みたいな感じでした。具体的には「『高嶺の花の女子生徒とスクールカースト上位の男子生徒がヤッたらしい』という噂話」くらいまでは10分で、そこから1時間弱はそのアイデアをどう31音で表現するか試行錯誤していました。やっぱ短歌って難しいと思います。






……

なんか、あまりに「人間の最悪さを詠もう」というコンセプトが強すぎましたね。





たぶん、これで異色最悪加点ポイントは狙えるでしょう。あまりにアレなので好き嫌いは激烈に分かれそうですが、選考陣に悪いオタクが一定数いるという事実に賭けます。

少なくとも、思考停止卑語連発みたいなのが相手なら確実に勝てます。私と同じような作風とレベルの作品が出てきたら諦め。
でも仮に出てきたら、負ける可能性よりもまず、こんな最悪なことを考えるオタクが少なくとも他に1人いるという事実の方が最悪じゃないか?






うーん、せめて一次選考くらいは突破したいなあ……でもテーマがテーマだし問答無用で却下される可能性もありそうだなあ……

一応おふざけに走らずめちゃくちゃ真面目に作ったんです、その努力だけでも認めてもらえないでしょうか……







なんか、他に自信持てるやつを思い付いたら応募しようと思わないでもなかったんですが、普通に一切思いつかなかったので、応募したのはこの1首だけです。




結果

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第10部門「性欲部門」に分類・エントリーされ、受賞しました。


いえ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い





審査員長、こばると先生の講評を引用させていただきたく存じます。

下卑た噂話のような語り口で伝えられる一首です。クラスの中で憧れや好意を一手に受けることの多い生徒を「高嶺の花」「マドンナ」「王子」「姫」などと呼ぶことはまれにありますが、「聖女さま」と呼ぶ例は創作物でもあまり見かけません。それだけに、このクラスが「聖女さま」に向ける敬意・崇拝には、並々ならぬものが感じられます。しかし、その直後に語り手の口から語られるのは「聖女さま」の情動的な俗極まる一面を示すゴシップ。そんな醜聞を触れ回る立場でなお「聖女さま」と語り手・聞き手に共有される人物は、一体どんな目線を向けられているのでしょう。聖と俗、崇拝と侮蔑、人間の深まる二面性にぞっとさせられるものがあります。


もうね、私が表現したかったことが100%伝わってて完全に感動しました。

冒頭で挙げた名記事「カスのプレバト」で、ういお先生が最悪なホラー詩を詠んで「怖すぎ」「最悪」「何を食ったらこんなことを思いつくんでしょうか。こっち来ないでください。」「ただし、この句がやろうとしていることには明らかな「表現」があり、その表現意図は実際に成功している。その確かな効果だけは素直に評価するしかありません」みたいに評されていましたが、ういお先生ほどハイレベルでないにせよ私も似た方向性で(似てるか……?)それなりに評価されたということで、オタク各位に憧れる私としてはめちゃくちゃ嬉しいです。

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反響

記事が出て、入賞してしまったのを確認したので、カミングアウトしました。










オタク各位がめちゃくちゃ動揺してました。



「え〜〜〜〜〜〜」「呆然としています」「明日からどうやって生きていけばいい?」「何も信じられない」「マジかよ」「あ な た か よ」







……なんか、ごめん。
確かに、私にこういう作品を作るイメージはあまりなかったですよね、たぶん。
「私のイメージからはちょっと外れるかもな」と思いつつ投げて、イメージ壊しちゃうの自覚しつつ自制より喜びと自己顕示欲の方が強くなってカミングアウトしちゃったんですが。


ちなみに、とあるオタクから「めちゃくちゃ動揺したけど、でも同時に納得できた」みたいなことも言われました。私だってエロゲオタクですし、全体的な逆張り具合とか諸々の要素はかなり「ふぁぼんっぽい」気がするので、まあ言われてみれば納得って感じかもしれませんね。
納得できるのに一切想定してなかったというのは、そもそも私が作者という可能性は選択肢にすらなかったということでしょう。まあそれはそう……


このレベルで読者を動揺させるフーダニットを書きたい(?)




この記事中で審査員のたぎょう先生に「結構好き」と言われていて、それだけでも嬉しかったのですが、さらに追加でコメントをいただきました。

そう、まさにそれを意図してたんですよね。ある程度ちゃんと表現できていたようで、何よりです。
まあ、全体として「うまい」というよりは「苦い」になってる感じはありますが。



※追記


感動されてしまった。



まとめ

今回の歌会終のテーマは、ご存じ「聖なるもの」でしたが、その「セイ」という音を、ともすれば安易に「性」に結びつけ、下ネタに走る応募作は多発。応募作一覧には極端な時には2分おきに性器の名称や性的行為にまつわる内容が投稿される事態となりました。

歌会終2021〜インターネットに愛をこめて〜

おいオタク、エロをナメるな。易きに流れず真摯に向き合え。
こっちは本気の遊びでやってんだよ。



オタク、聞いてるか?



こちらからは以上です。

*1:後で指摘されて知ったのですが、季節が急速に冬に向かっているというだけで、どっちかというとこれは夏の話ですね……

*2:これは作品そのものより「恋愛もの」と称してクリスマスイブに一挙放送する狂ったAbemaTVのせいですが

*3:ごく一部を挙げると、先述の「お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件」とか、「カーストクラッシャー月村くん」とか