ロシア革命時の混乱の中で独立し、ソ連による併合、ナチス・ドイツの占領、ソ連による再占領という複雑な過程を経て1991年に独立(「再独立」)したバルト三国。
- 侵攻してきたドイツ軍をソ連占領に対する「解放軍」と受け取った住民が結構いた
- 対独協力者(「ファシスト」)が「ソ連(スターリン体制)に対するレジスタンス」でもある
- 対独協力者の中にはホロコーストに加担した者も結構いた
- ソ連(赤軍)に協力した住民も多かった
まあこういうわけで、単純に割り切れないが故にロシアや西欧との間で歴史認識を巡って対立が発生する。歴史認識問題が政治の道具になるのは決して東アジアに特有の現象ではない。
ナチズム(ホロコースト)の悪を絶対視する西欧の歴史観、スターリン体制とナチズムの両方を糾弾する中東欧・バルト三国の歴史観、ソ連から大祖国戦争史観を受け継ぎファシズムに対する勝利を誇りにするロシアの歴史観、などなど複数の歴史観が衝突している状況が詳細に書かれていて、「あーこれでこそ人間〜」と嬉しくなってしまった。(邪悪なオタクなので人間の業を観測すると喜びます)
なお、同じ国でも当然一枚岩ではないことを注記しておく。バルト三国にもロシア系住民は多数いるし、ロシアの歴史学者の全員がロシア連邦政府の歴史認識を支持しているわけではない。
で、まあエピローグの最初の方まではまともな歴史の本だな〜と思っていたのですが、エピローグの途中から唐突に政治的主張を(ちょっとではあるが)混ぜ始めて怖くなって泣いてしまった。しかも本文とは違って論拠とか適当だし……
最後は微妙にアな感じだったが、全体としては面白い本だと思う。