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チラシの表(なぜなら私はチラシの表にも印刷の上からメモを書くため)

【つむつき】東大医学部入試(1921) ドイツ語 解答・解説

これは東京大学きらら同好会 Advent Calendar 2023の10日目の記事です。


昨日の記事は、ひろみね氏による「妄アカクイズ」でした。

adventar.org




東大きらら同好会が2022年に発行した合同誌「Micare vol.2」には、「きららの中の東大」と題した記事が載っていました。最近きらら同好会のブログに再録されたので、そちらで読んだという人もいるかもしれません。

utkiraracircle.hatenablog.com

この中に、「紡ぐ乙女と大正の月」2巻に登場した「とびきり難しい」帝国大学の入試について書かれた部分があります。当時出題された実際の問題の解説にまで踏み込んでいて面白いのですが、ドイツ語の問題だけはDeepLで殴っているので解説がありません。

私は一応この本の校閲責任者だったので、合同誌の発行前に上の記事の内容も確認しています。そして当時も「ドイツ語の部分の解説が欲しいなあ、ちょっとだけでもいいから」と思っていたのですが、私自身にドイツ語の知識が一切なく、何もできなかった記憶があります。当時からずっとそれが心残りでした。


しかし、今の私は一味違います。「Micare vol.2」の発行から1年以上経って、ずいぶん成長しました。具体的には、ドイツ語が読めるようになりました。

yuyusuki.hatenablog.com

まあ、我ながら意味不明な学習方法だったとは思います。ドイツ語の教科書は一切読まず、発音だけ学んだ後にいきなり350ページある『これならわかる ドイツ語文法』を斜め読みし、最低限「インターネットの辞書があれば構文を把握できる」レベルに到達した瞬間からドイツ語論文講読の授業に突撃し、ドイツ語の論文を訳読しました。本当に意味不明ですね。でも私にはこれが一番適切だという確信があり、実際うまくいきました。

↓これは当時のドイツ語学習RTAの知見をまとめたメモ

hackmd.io

というわけで、晴れてドイツ語が読めるようになったことですし、この記事ではつむつきに出てきた入試のドイツ語問題を解説していきます。



なお、試験問題は以下のページから引用しました。「きららの中の東大」で参照されていた問題集は本文からウムラウトが全部消えていたのですが、以下の本では正しく表記されています。出た年度(と収録されている問題の年度)が違うだけで同じシリーズなので、おそらく組版段階の問題、たとえばウムラウト付き文字の活字が足りなかったとかそういう事故だと思われます。

dl.ndl.go.jp

問題

Wie aus Leblosem Leben entsteht, wie aus Lebendem Totes wird, ist auch ein Rätsel, das wohl niemals gelöst werden wird; doch das geht nur die Wissenschaft an. Aber das andre, die Frage nach dem Sinn und Zweck unseres Daseins, geht jeden Menschen an, der über sich und um sich blickt.

解答

いかにして生きていないものから生きているものが生じるか、いかにして生きているものから死んでいるものが生じるか、これらはおそらく決して解決されないであろう問題だが、それでも科学にのみ関係するものである。しかし、もう一方の、我々の存在の意義と目的に関する問いは、自分自身やその周囲に目を向ける全ての人に関係するものである。

解説

Wie aus Leblosem Leben entsteht, wie aus Lebendem Totes wird, ist auch ein Rätsel, das wohl niemals gelöst werden wird;

並列されている2組のwie以下が節として主文の主語になっていること、そしてdas wohl niemals gelöst werden wirdがRätselを修飾する関係節であること、この2点を把握する必要がある。ドイツ語文法の基本である枠構造が分かっていれば問題ないだろう。

LeblosemとLebendemとTotesは名詞化した形容詞で(元はleblosとlebendとtot)、ここでは中性形の「〜もの」という意味で解釈するのが適切である。いずれも強変化の形で、順番に3格、3格、1格。
また、A werden aus B(3格)は「AがBから生じる」「BがAになる」という意味である(例:Aus Freundschaft wird Liebe. 「友情が愛に変わる」)。初見でも文脈を踏まえれば正しく訳せるだろうが、werdenを「(主語)が〜になる」とだけ覚えていると戸惑うかもしれない。
また、gelöst werden wirdの並びにも面食らったかもしれない。gelöstが過去分詞で、受身の助動詞werdenとセットで「解決される」。最後のwirdは節全体の主語(Rätselを意味する関係代名詞das)と直接対応する定動詞で、推量の助動詞と解釈すればよい。

doch das geht nur die Wissenschaft an.

定動詞は分離動詞an|gehen「関係する」。
解答では前に出てきたauchとこの箇所のdochをセットと解釈し、譲歩「〜ではあるが、〜」のニュアンスで訳した。

Aber das andre, die Frage nach dem Sinn und Zweck unseres Daseins, geht jeden Menschen an, der über sich und um sich blickt.

文全体の主語は同格のdas andreとdie Frage以下で、それに対応する動詞はさっき出てきた分離動詞an|gehenである。das andreの後にはRätselが省略されていて、前に登場したein Rätselと対になっている。(現代ではandreのような綴りは口語的とされ書き言葉で使われない傾向にあるが、100年前はそうでなかった)
なお、aberは並列接続詞なので「定動詞第2位」の法則に影響を与えない。der über sich und um sich blicktは前のMenschenを修飾する関係節。

unseres Daseinsはunser Dasein(「我々の存在」)の2格、jeden Menschenはjeder Menschen(「それぞれの人」)の4格。









明日の記事は、れんず氏による「同人ゲートウェイドラッグとしてのきらら同好会・考」です。