天才クールスレンダー美少女になりたい

チラシの表(なぜなら私はチラシの表にも印刷の上からメモを書くため)

気軽な海外旅行という、かつてあったはずの幻影のこと

1つの怪物が世界を徘徊している——すなわち新型感染症という怪物である。古い世界のあらゆる権力は、この怪物を退治するために、神聖な同盟を結んでいる。プーチンもトランプも、習近平文在寅も、マクロンメルケルも。

グローバリズムに染まっていたはずの主権国家たちは、ウイルスの拡散という脅威を前に、まるで自分たちの本分を数十年ぶりに思い出したかのように国境を閉鎖した。シェンゲン協定は今や有名無実だし、日韓の相互のビザなし協定は停止されたし、さらにあれほど世界の空を飛び交っていた飛行機の群れはもはや見る影もない。

この災禍が終わるまで何年かかるかを予想することは私にはできないし、感染症や政治経済などの専門家でも難しいだろう。それに、仮に事態が終息したとして、その後の世界が「元に戻る」ことはおそらくない。世界の変化はいつだって不可逆だし、これほどの急激な災厄であればなおさら、世界は不連続に変わってしまうだろう。

「コロナ後」の世界がどうなっているのだろう。1ヶ月前ですら今の情勢を予測するのは困難だったのに、今から数ヶ月、あるいは数年も後のことを、この激動の世界の中で予測するのは困難を極める。

ウイルスの大流行はおそらくそのうち収束するだろう。このウイルスが小松左京の「復活の日」のように人類を滅ぼすとは思えない。ただ、次の流行でもまた今回のような大量の死者を出すだろうということになれば、一度流行が収まっても以前のような日常には戻せない可能性がある。
ウイルスを封じ込めできれば万々歳で以前の体制に戻せるかもしれない。また、封じ込めが失敗しパンデミックの再発が予想されるにしても、ワクチンや治療薬ができればウイルスとの闘いもずいぶん楽になって、次に流行したとしても医療体制が崩壊したり大量の死者を出すことはなくなるかもしれない。そうなれば人が集まり接触するような経済活動も再び可能になるかもしれないし、国境もまた開放されるかもしれない。
まあ、「かもしれない」を連発してることからわかるように、これはかなり希望的観測だ。

とにかく、私に言えるのはただ1つ。ついこの間まで当たり前だったことも、数年後には不可能になっているかもしれないという当たり前のことのみだ。


さて、「コロナ後」の世界は、はたして気軽に海外旅行をできるような世界だろうか。



2010年代、海外旅行はぐっと身近な存在になった。日本と中国、韓国、台湾、そして東南アジアの諸国との間に格安航空会社が大量に便を飛ばし、日本人が近隣国に、また近隣国の人々が日本に大挙して訪れるようになった。私のTwitterのタイムラインではほとんど常時どこかの国の写真が流れてきたし、2,3日の暇ができたからと気軽に海外旅行に出掛ける「軽率な渡航」をどの季節も誰かしらが実践していた。旅先のホテルはインターネットで予約できるし、工夫次第で航空便も安く入手できる。全ての歯車が噛み合って、海外旅行の夏の時代を作りあげた。

しかし、20年代に突入した途端、夏を謳歌していた世界は氷河期が訪れたかのように沈黙した。そして、終わりの見えない氷期の中、人類は細々と暮らしている。

数多あった航空会社はほとんど死に体で、国に支援してもらったごく僅かの会社——つまり各国のフラッグ・キャリアなど——しか生き残れないかもしれない。今後海外旅行が再び可能になるのがいつかも分からないし、仮に国境が再び開いたとしても、その頃にはLCCが死に絶えていて、海外旅行が贅沢とされる時代が再びやってくるかもしれない。まあ、今ある格安航空会社が死に絶えたとしても、世界の空を飛行機が普通に飛ぶようになればLCCは再び蘇るかもしれない。ただ、仮にそうだったとしても、コロナショックで経済が落ち込んだこともあって、2019年の規模に戻るには時間がかかるだろう。




大学生になれば、自由に海外旅行できると思っていた。TLに数多流れる他の国の写真を見て、自分が大学生になったら行きたい場所リストを作った。それは「地球の歩き方」に載っているようなラインナップとはちょっとズレているかもしれないけれど、ズレていたって一人旅、あるいは興味が似ている友人との旅行なら問題なく楽しめるだろう。もちろんお金はかかるだろうけど、可能な限り節約すれば、バイトができる大学生*1にとって払えないほどの金額にはならないはずだ。

でも、いざ大学生になって、その夢に近付いた途端、そんな世界は消えてしまって、次いつ現れるかすらわからない。
あれは、10年代という特異な時代が見せてくれた幻影のようなものだったのだろうか。私が中学生になった頃には既にブルートレインは消滅していたが、これを海外旅行でも繰り返すことになるのだろうか。

今の私にはただ、祈ることしかできない。それと、次の旅行(すなわち人生初の一人旅)をより楽しめるように、中国語とかロシア語とか韓国朝鮮語とかその他の言語を学んでおこうと思う。フランシス・ベーコン曰く知識は力らしいので。

*1:私の高校はよほどの事情がない限りバイト禁止だったし、バイト禁止令を破ってこっそり働く人もおそらくほとんどいなかった