はじめに
本稿では、「恋する小惑星」(以降「恋アス」)に登場するイノ先輩こと猪瀬舞の大学生活について論じる。
これは恋アスミレニアム問題として恋アスファンを長らく悩ませてきた難題であり、次の1000年の間にぜひとも解決するべきものである。故に、この問題を考察することには重大な社会的意義が存在する。
これまで、この問題に関しては主に京大説が主張され議論されてきた。彼女は総合人間学部文化環境学系地域空間論分野か文学部地理学専修、あるいは工学部地球工学科に進学するというのが定説である。他にも、都立大説も提唱されている。
それに対し、本稿では今までほとんど議論されていなかった東大説に関して詳細に、可能な限り実証考察学の方法論に忠実に議論する。つまり、原作の「恋する小惑星」4巻までとアニメ1期の全12話の描写に立脚し考察を行い、必要に応じて現実世界の事例を検討する。
東大説の論拠
進学選択(進振り)
東大には進学選択(通称「進振り」)が存在する。これは入学してから1年半に学部や学科を決める制度だ。
地理は学際的な分野であり、これを学ぶ学科は(後で詳細に議論するが)理学部、工学部、教養学部などにまたがっている。それぞれに地理の少し違う分野を扱っているが、イノ先輩の地理に対する興味は分野を問わず全体に広がっている。たとえば、飛び地は主に人文地理、暗渠だった道は自然地理と人文地理の両方、といったように。地図そのものの製作には工学的な技術も必要であり、さらに地図に情報をマッピングする手法(GIS)は分野を問わず標準的な研究手法となっている。
こういった地理の学際性と進振りは相性がいいと考えられる。もっとも、京大でも地理を扱う学部・学科は文理や専門分野にこだわらない学際的な雰囲気があるようで、これは東大の専売特許というわけでもない。
星咲の立地
星咲は埼玉県に位置する。よって、地理を学ぼうと考えたときに東大が候補に上がるのは不自然ではないように思われる。同様に都立大も候補に上げられるが、東大は都立大よりも星咲からのアクセスが良いという点に強みがある。東大の弱みは受験の難易度であるが、イノ先輩なら普通に合格してくれる気がする。
東大生猪瀬舞概念の詳細について
イノ先輩は4巻で冠模試(駿台の東大実戦、河合塾の東大オープン)の時期なのに新聞の手伝いをするなど余裕そうな様子を見せていた。故に彼女はそれなりに受験余裕勢であり、順当に現役合格(2019年4月入学)したものと考えられる。
そうだとすれば、彼女の大学生活はどうなるだろうか。
東大には地理部というサークルが存在する。イノ先輩が東大に入れば、タテカンなどで間違いなく地理部の存在を知り、すぐに入部すると思われる。巡検や合宿と立体地図の製作、この2つの活動はともにイノ先輩を惹き付けてやまないものであろう。故に、東大生猪瀬舞概念の解像度を上げるなら地理部は切り離すことができないと思われる。
我々は地理部で活動する彼女の姿を容易に想像することができる。山手線を徒歩で一周し、都心に残る露頭を観察し、川の跡を辿る。彼女は間違いなく模範的な地理部員になることだろう。
イノ先輩の進学先 〜比較進振学の観点から〜
進学選択は大学生活を大きく左右するものであり、彼女の詳細な専攻分野を確定する上でも重要である。
残念ながら1箇所に絞るまでには至らなかったものの、ある程度の候補を挙げることができた。
教養学部 学際科学科 地理・空間コース
人文地理ができるコースで、理系からも問題なく進学できる。巡検(フィールドワーク)をしたりGIS(地理情報システム)を扱う授業・実習があったりする。フィールドや空間に関することなら割となんでもできるコースであり、地理や地図が好きなイノ先輩の進学先の有力候補の1つといえる。
理学部 地球惑星環境学科
自然地理、たとえば地形学などができる学科。授業の一環として地質・地形を観察する巡検がある。イノ先輩が地理だけでなく地質や化石も専門にしようと思った場合はこの学科になると思われる。
工学部 社会基盤学科
土木を扱う学科で、測量や空間情報学なども守備範囲に含まれる。空間情報学は空間的な位置と関係づけられた情報を取り扱う分野で、国土や都市を情報として扱うというのはそのまま地図の目的であるが故に、極めて地図と親和性が高い。
工学部 都市工学科 都市計画コース
都市計画やまちづくりを扱う学科。イノ先輩が実践的な都市計画などに興味があるようにはさほど見えないが、研究室単位で見ると彼女が興味を持ちそうな分野も存在する。
たとえば、都市デザイン研究室で都市計画の歴史を研究したり、住宅・都市解析研究室で地理情報システムについて(あるいはそれを使って)研究したりといった可能性があるのではないか。これらの研究室の公開されている論文一覧を見た限りでは。実践的な都市計画から離れたテーマでも受け入れられる余地があるように思われるし、地図やそれに類する単語が含まれる論文・研究も同じ都市計画コースの他の研究室に比べて多めだといえる。
おわりに
本稿では東大生猪瀬舞概念を提唱し、その根拠とその上で生じる諸問題について議論した。これはあくまで試論であり、他の研究者たちによる質疑、反論、疑義は大いに歓迎する。本稿を叩き台として東大生猪瀬舞概念、ひいては大学生猪瀬舞概念の精緻化につながれば望外の喜びである。
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6月12日(土曜日)にサークル「東大恋アス同好会」として、東京都の大田区産業プラザPiOで開催される恋アスオンリーイベント「キラキラアーカイブ」にサークル参加し、合同誌「#FindOurStars」の第一号を頒布します。配置は「画03」です。私は「東大生猪瀬舞概念」と題して、本稿の内容をより詳細に論じた8ページほどの論考を寄稿しました。イベント後は通販などでの販売も予定しています。1年程度経てば内容を公開する予定ではありますが、イラスト・デザイン・組版・装丁担当のあをもみじ(@awomomiji)さんの手によって大変素敵な装丁になっていますので、物理本でお手に取っていただければ幸いです。