天才クールスレンダー美少女になりたい

チラシの表(なぜなら私はチラシの表にも印刷の上からメモを書くため)

「右ハンドル」感想

右ハンドル (群像社ライブラリー)

右ハンドル (群像社ライブラリー)

沿海地方ウラジオストク
ここはロシアだが、モスクワとは遠く離れている。ちょっと車を走らせれば中国との国境があるし、韓国や日本からとても近い。

その「辺境」の地にソ連崩壊後、中古の日本車が大量に流れこんだ。右側通行のロシアで「余生」を過ごす日本車は沿海地方の人々に愛され、アイデンティティーにまでになってゆく。しかし遠いモスクワから反右ハンドル圧力がかかり、中古日本車ビジネスは地元の人々の抵抗虚しく衰退していく……


本作はウラジオストク(沿海地方)における中古日本車(「日本娘」、японка)について語ったエッセイだ。「ドキュメンタリー小説」とあるが、事実上エッセイみたいなもんだろう。登場人物は架空かもしれないが……
全編を通して、ウラジオストクの日常とか空気感がとにかく伝わってくる本だ。

この本の4章までには筆者(そして沿海地方の住民)の車に対する愛が綴られている。自動車(というより機械の類全般)に無関心だった筆者が自動車にハマった経緯とか、ウラジオストクにおける中古車ビジネスに関する体験談とか、運転という行為に対する考察とか。

5章からは愛を語るだけでなく、モスクワと極東の攻防も描かれる。単に右ハンドルの問題だけではなく、ロシア連邦におけるモスクワと極東の意識の違い、日本車と極東(特にウラジオストク)のアイデンティティーの問題なども。
ウラルより西側、全面積の1/4ほどの土地にロシア連邦の人口(1.4億人)の8割が住んでいる。ウラジオストクはウラルから遥か7200km、人口はウラジオストクで60万人、沿海地方全てを合わせても200万人で、その上に不景気などの要因があって毎年減少している。そんな「切れっぱし」の極東の現状や中央政府の偽善的な態度を筆者は皮肉混じりに語る。(そもそも政治というものは概して偽善的な気がするけど……)



ロシアにおける右ハンドルの本場はウラジオストクをはじめとする沿海地方だが、日本車はシベリアでも広く親しまれている。この本によるとウラルより東では右ハンドル車が多いらしい。実際、イルクーツクに行ったときも頻繁に日本車を見かけた。(日本車に詳しいわけではないが、右ハンドル車は100%日本車なので猿でも分かる)

イルクーツクに2週間行ったとき、人の車に乗せてもらって遠出したことがある。そのとき、雄大な車窓を眺めながら、広大なロシアで車を運転したいという感情が湧き上がってきたのだ。
そこにきてこの本である。
車に一切興味がなかった私が、「ロシアの大地で車を運転してみたい」とまで思ってしまったのだから、広大な土地が人を惹きつけるのはどうやら本当のことらしい。というかロシアに「帰り」たい。



ところでこの間、この本のロシア語版を中古で(運命というべきか、この本も中古であった)買ってしまったのだが、これマジでどうしよう……読むだけのロシア語力は現状ないし……

↓買ってしまったときの話

yuyusuki.hatenablog.com

ロシア語が多少分かれば、この本ももっと楽しく読めると思う。例えば「右の」を意味するправыйには「正しい」という意味もあるんですよ。